2022年3月21日、経済産業省所管のエネルギー庁が、2012年の制定以来初めてとなる「電力ひっ迫警報」を東京エリアと東北エリアに発令しました。想定気温が平年より非常に低く、暖房の需要が増えた時期に火力発電所14基が運転を停止する地震が発生し、電力の供給能力が下がったためでした。

電力ひっ迫警報は、正式には「電力需給ひっ迫警報」といい、2011年の東日本大震災をきっかけに導入された制度です。電力の需給バランスの乱れが見込まれる場合、事前に節電協力を呼びかけ、停電やブラックアウト(大規模停電)を防ぐことが目的です。

東日本大震災以降、災害時の電力に対する備えの関心は高まっており、家庭用蓄電池の普及率は右肩上がりの増加を続けています。また、近年では高騰し続ける電気料金への対策としても、家庭用蓄電池の導入が増えてきました。今回の記事では最先端技術を使用した家庭用蓄電池をご紹介します。

業界&世界初!半固体電池の家庭用蓄電池「SuperBaseV」

SuperBaseV(スーパーベース ブイ)は、最先端技術「半個体電池」を採用した家庭用大容量ポータブル(可搬型)蓄電池です。

半固体電池とはどういうテクノロジーなのか?

私たちの暮らしに欠かせない電気。その電気を、光や熱、化学反応などのエネルギーから生み出す変換装置が「電池」です。電池にはさまざまな種類があり、種類が同じ電池でも用途に合わせて円筒形やコイン型、ボタン型など多様な形状のものが作られています。

電池の中にはプラスの陽極とマイナスの陰極との間に「電解質」があり、電気を貯めたり放出したりできるようになっています。

マンガン乾電池の構造の場合(出典:一般社団法人 電池工業会

一般的な電池の電解質は液体の形をとっています。そのため、なんらかの理由で入れ物が壊れると、電池の外に電解質液が染み出てしまいます。みなさんが一度は聞いたことがあるであろう「液漏れ」という言葉は、電解質が液体の形だから起こるものなんですね。

また、液体は温度が上がると気化する性質があります。時折、スマホやバッテリーの発火事故がニュースになりますよね。あれは、スマホやバッテリーに使われているリチウムイオン電池が劣化したり過充電や落下などの衝撃により構造が壊れ、電池内に大量の電気が流れる(ショートを起こす)ことで起きます。電池内部の温度が発火点まで上がり、電池分解時に生じるガスや電解質液が気化したガスなどに引火して起こります。

半固体電池は、電解質に液体と個体の中間の性質をもつ物質を使用した電池のこと。液体ではないため漏れたりせず、気化しにくいので燃えたり一般的な電池よりも経年劣化を起こしにくく、長期間高機能を維持し続けられます。

現在、家庭用蓄電池としてよく用いられているのは液体状の電解質が使用されているリチウムイオン電池です。SuperBaseVは業界初の半固体電池を使用した家庭用蓄電池で、従来型の家庭用蓄電池よりも安全性に優れているといえます。

 一般的な蓄電池にはない高性能に注目!

SuperBaseVは高い安全性だけでなく、家庭での使用に適した4つの特徴があります。

特徴① 1台でも大容量。つなげて容量拡張もできる!

SuperBase V 1台の容量は6.4kWh。キャンプやアウトドアレジャーなどで持ち出して使うポータブル電源(平均500Wh)よりも格段に大きい蓄電容量です。

1本のケーブルで複数台のバッテリーと繋いで最大10倍(64kWh)まで容量を拡張することもできます。家庭によって必要な電力は違うため、必要に応じて簡単に容量を変えられるのは便利です。

開発元・Zendure社の他バッテリーと接続したり、本体を2台つなげたりできる(出典:Zendure|公式Instagram

ところで、6.4kWhや64kWhと聞いてもピンとこない方は多いかもしれませんね。

災害への備えとして家庭用蓄電池を導入する場合、一般的に容量4kWh以上がおすすめだといわれています。停電時の消費電力は最低でも約4kWhで、容量4kWh以上の蓄電池(価格相場は90万〜)なら少なくとも1日分の電力を確保できるからです。

停電時にどういう生活がしたいのか(どれだけ電気を使いたいか)などによって最適な蓄電池容量は変わる(出典サンジュニア「ご自宅に最適な蓄電池容量と選び方のポイント」

とはいえ家電によって消費電力は大きく異なるので、自宅で停電が起きた場合にはどの家電を使い、どの程度の電力を必要とするか計算しておくと良いでしょう。

ちなみに総務省統計局によると、1人暮らしなら6.1kWh/日、4人暮らしなら13.1kWh/日が一般家庭における1日の平均電気使用量だそうです。

世帯数 使用量/日 1人あたりの使用量/日
1人 6.1kWh 6.1kWh
2人 10.5kWh 15.25kWh
3人 12.2kWh 4.06kWh
4人 13.1kWh 3.275kWh

SuperBase V 1台の容量は6.4kWh。一人暮らしなら一時的ではなく1日中停電していても大丈夫ですし、4人暮らしの場合でも生活に必須なエアコンや冷蔵庫などは、使い方にもよりますが半日近くは稼働させられます。その間に避難所へ向かう準備が十分できますし、容量を大きくすれば停電時でも余裕のある生活ができますね。

特徴② 1台で多様な家電を動かすことが可能

AC出力は一般的な100Vに加えて200Vに対応しています。

  • 100V対応・・・冷蔵庫、TV、照明、携帯の充電など基本的な家電
  • 200V対応・・・200V対応エアコン、電子レンジ、IHクッキングヒーターなどハイパワーな家電

一般的な蓄電池は100Vのみに対応したものが多く、200Vで使える家電は別途専用の蓄電システムを搭載したものでなければ動かせません。SuperBase V なら1台で両方ともを動かせるため、コストの削減にもつながります。オプションのアダプターを使用すればEV電気自動車の充電まで可能です。

出典:Kickstarter|SuperBase Vプロジェクトページ

特徴③ UPS機能

出典:Kickstarter|SuperBase Vプロジェクトページ

SuperBase Vは家庭の分電盤と接続することで、停電時は瞬時に自動で給電が切り替わり、家全体の電力をSuperBase Vから供給できるようになります。この給電の切り替わりはなんと0秒で行われ、SuperBase Vの使用者は停電が起きたことに気づかないほどだそう。

実はこの点、単なる蓄電池とは異なる大きなメリットなんです。

蓄電池は直流電気を貯めるだけの機器であり、貯めた電気を使うときには発電機を稼働させなければなりません。発電機は通常停電発生後に起動するため、電気供給までに時間がかかります。しかし、パソコンやハードディスクなどの電子機器は電気供給が少しでも止まってしまうと、ハードウェアが損傷したり大切なデータが消失したりしてしまいます。

こうした場合に備え、蓄電池にインバータ(直流電源を交流電源に変える電気回路)を組み合わせて絶え間なく電気供給できるようにした機器のことを「無停電電源装置(UPS:Uninterruptible Power Supply)」といいます。UPSに停電が起きると問題が起きる電化製品をつないでおくことで、予期せぬ電源障害が発生した場合にも稼働を継続したり、パソコンの場合は安全にシャットダウンするための時間が稼げます。UPSは東日本大震災の直後に行われた計画停電によって需要が急増し一時話題にもなったので、みなさんの中にもご存知の方は多いのではないでしょうか。

SuperBase Vには蓄電池としての機能に加えてUPS機能が搭載されています。そのため、停電時にもパソコンやサーバーのバックアップ電源としてのデータ保護はもちろん、冷蔵庫や水槽のポンプの電源など、大切な食材や大事なペットの命を絶え間なく守り続けることができます。

特徴③ 操作や移動が簡単!

SuperBase Vはスマートフォンアプリの管理機能やスマート音声認識機能で簡単に操作することができます。

本体は60kg近い重量があり、基本的には据え置き型で使用します。

移動させたい時は下部に電動アシスト付き車輪がついているので、ハンドルを軽く引くだけで簡単に動かせます。スマートフォンからの操作で、ラジコンのように自動で動かすことも可能です。

世界が注目する家庭用蓄電池

SuperBase Vを開発したのは、Zendure社。米カリフォルニア州のシリコンバレーと中国大湾区のテクノロジーハブを拠点とし、エネルギー技術分野で最も急成長しているクリーンエネルギー技術系新興企業の1つです。

最高経営責任者(CEO)兼創業者のBryan Liu 氏は

「SuperBase Vは人々に安全で信頼性の高いエネルギーを自宅に導入し、オンデマンドで使用できるように蓄電する機会を提供する。自然災害時のバックアップ電源の確保から、再生可能資源からのエネルギーの貯蔵、電気自動車の充電まで、消費者個人の手の届く範囲で電力の自立をもたらす安全なソリューションへの需要が高まっている」

と述べています(引用:「Zendureが初の半固体家庭用バッテリーシステムを発売、エネルギー安全保障と気候変動の地球規模の課題に対応」2022/9/30、PRWire)。

SuperBase Vは世界最大級のクラウドファンディングサイト「Kickstarter」で先行販売が行われると、目標達成率50,000%となる約8億円を売り上げ、ハードウェア部門で歴代トップ3を記録しました。半固体電池を使用した世界初のポータブル電源として、いま世界中から注目されています。

動画&画像の出典:Kickstarter|SuperBase Vプロジェクトページ

 

日本での発売は?

日本では2023年春に販売代理店を通じて発売されることがZendure社から発表されました。価格などの詳細は改めて案内される予定だそうです。(参考:「ZENDURE、半固体電池を使ったポータブル電源「SUPERBASE V」を2023年春発売」2022/12/6、トラベルWatch

現在、東京有楽町の体験型ストア「b8ta Tokyo – Yurakucho」(東京都千代田区有楽町1-7-1 有楽町電気ビル1階)で、12月1日〜1月31日の2ヶ月間、展示されている現物を見ることができます。

まとめ

ご家庭で蓄電池を導入すれば、災害発生時の停電にも対応できるほか、夜間割引が適用される時間帯には蓄電池を充電し、電気使用量が多く値段が高くなる時間帯は蓄電池に蓄えた電気を利用することで電気料金の節約が可能です。

半固体電池を使用し従来の蓄電池より安全性が高まったSuperBase Vは、今後国内でも需要が高まりそうですね。

 

 


参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000057246.html、https://kyodonewsprwire.jp/release/202209307468,https://zendure.com/pages/technology、https://www.instagram.com/zendureofficial/、https://www.instagram.com/zendureJP/、https://batteryconcier.com/now/、https://techcompass.sanyodenki.com/jp/training/power/about_ups/001/index.html、https://www.sbv.zendure.jp/、https://travel.watch.impress.co.jp/docs/news/1461553.html、