富士通株式会社と富士通インドネシアがを共同で構築した、スマートフォンとAR技術を活用して河川情報を収集するシステム。このシステムが河川管理をする上でいかに有効かを実証する実験が2016年2月23日から3月18日まで行われた。本記事では、このシステムと実証実験についてまとめる。
スマホやタブレットを活用する「AR技術」って一体?
今回紹介するシステムは安価で用意しやすいスマートフォンと、AR技術を活用するという点がポイントなのだが、そもそもARとはなにかご存知だろうか。
AR(Augmented Reality)とは「拡張現実」といって、人が知覚する現実環境をコンピューターにより拡張する技術のことである。簡単にいうと、現実で人が感知できる情報に何か別の情報を加える技術のことで、このAR技術を使えば、スマートフォンのカメラ映像で表示される現実世界に、実際その場にない情報やCGを重ねて表示することが可能ということだ。昨年世界中で流行した「ポケモンGO」もそのひとつである。
この富士通と富士通インドネシアの共同システムも、スマートフォンのアプリを通してみる現実の河川の映像にメモリなどの目に見えない情報を加えて水位を観測、監視するというAR技術だ。
どうしてインドネシア?新技術の実用化が望まれる背景とは
インドネシア共和国は水害に見舞われることが非常に多い国だ。今回実証実験が行われた北スラウェシ州マナド市も海に面しており、4つの中級河川が流れている。それにより大雨による河川の氾濫や鉄砲水、洪水などが起こりやすいため、河川水位の監視、非常事態における自治体職員の迅速な情報共有、市民への正確かつ迅速な避難指示などが課題となっている。
しかし、河川水位センサーを設置するとメンテナンスにコストがかかり、インドネシアで長期的に利用することは難しい。そこで今回、JICAインドネシア事務局の委託を受け、富士通と富士通インドネシアによる、低コストで導入可能なスマートフォンを利用したAR技術の実証実験に至ったのである。
マナド市で行われた実証実験の内容
2016年2月23日から3月18日にかけて行われた実証実験は、防災・減災に役立つ高精度な情報収集が可能か、このシステムを利用して河川水位の変化を把握・共有することが河川管理における状況判断に有効かどうかを判断することを目的としていた。それぞれの役割分担としては、富士通と富士通インドネシアはプロジェクト全体のマネジメントやシステムの開発などを行い、PUマナド河川事務所はスマートフォンアプリを利用した河川水位の観測と監視を行う。
測定においては、PUマナド河川管理事務所の観測担当者が1日3回スマートフォンアプリで水位、写真、水面上昇の様子を伝えるコメントなどを送信する。河川から離れた場所からでもカメラのズーム機能を利用することで観測可能なため観測者の安全も確保でき、タップした水面の目盛りが自動的に数値化されるので観測精度も高いのが特徴だ。
監視はPUマナド河川管理事務所の河川管理者が1日3回、事務所でインターネットを経由し水位やその変化を確認。それがこのシステムによりリアルタイムに蓄積されたデータやコメントがグラフ化される。また、洪水警戒水域に達するとアラームが表示される。さらに、事務所の職員はパソコンやスマートフォンといったデバイスからインターネットに接続することでこの情報を参照できるので、確実なデータの取得や早期の避難指示が期待できるのだ。
今回紹介した防災技術は主に、水害の防災・減災に役立てることを目的としている。富士通の発表によると、今回の実験では情報はPUマナド河川事務所職員へしか公開されていなかったが、有効性が検証され本システムがマナド市に導入されれば市民にも情報公開される。市民の自発的・自律的な減災活動にも役立つだろうとのことだ。
観測者の危険も少なく、数値もより正確に測定でき、より低コストなこの技術が一日もはやくインドネシアの人々の役に立つことを願う。