日本では地震や津波、台風、豪雨など自然災害に備えて、防災訓練が行われている。日本に住むほとんどの人が、学校や自治体などで防災訓練に参加したことがあるだろう。しかし、何度も繰り返し行われている訓練に慣れてしまって、せっかくの避難訓練などで緊張感がなかったり、実際に災害に見舞われたときに訓練時と同じことができるのか不安だという人もいるだろう。今回の記事では、普段の防災訓練をもっと現実味のあるものにしてくれる新しいテクノロジー、「VRscope for ハザード」を紹介したい。

「VRscope」とは

まず「VRscope」について簡単に説明したい。「VR」という言葉事態を聞いたことがある人は多いと思う。「VR」とはバーチャルリアリティーの略で、人間の感覚器官に働きかけて非現実だが、実質的に現実のように感じられる環境を人工的に作り出す技術の総称である。

そして開発元の凸版印刷によると、「VRscope」とはスマートフォンに配信した360度パノラマの動画や静止画コンテンツを凸版印刷が独自開発した専用のビューアーにセットして観賞することで、立体感、臨場感に仮想体験できるあふれるVRコンテンツを提供するものだ。

「バーチャルリアリティー」を日本語にすると「仮想現実」である。現実にないものを仮に想定する、という意味では自然災害が起こったと仮定して実施する防災訓練と同じであり、実際に防災教育のために開発されたのが「VRscope for ハザード」である。

「VRscope for ハザード」の用途

画像:凸版印刷より引用

凸版印刷によると「VRscope for ハザード」は自治体の水害ハザードマップと連動したバーチャルリアリティー映像により、居住地域の被災状況を仮想体験できるというもので、VRを用いた防災情報の可視化を研究する愛知工科大学工学部情報メディア学科の板宮朋基准教授の協力のもと開発された防災訓練支援サービスである。これを使用することで水害被害の疑似体験が可能だ。

ハザードマップに配置されたマーカーをスマートフォンで読み込むことで、各地点のVR映像を表示するこの技術は、自治体や学校だけでなく、家庭でもVR体験が可能だ。さらにコンテンツは凸版印刷が管理、運営するクラウドサービスから提供されるため、専用アプリの開発や個人への配信環境の構築といった事前準備が不要になり、導入の際の費用は軽減される。

登録地点は20地点までで、基本料金は年間約60万円。VRコンテンツの制作は内容により異なるが、約100万円からとなっている。

防災意識の向上を促す「VRscope forハザード」

画像:凸版印刷より引用

2015年11月に提供が開始された「VRscope for ハザード」は、自治体や小中学校での防災教育を使用目的としている。津波や豪雨による水害を実際の映像に重ねて見ることができるため、居住地域が被災した際の避難所や避難ルートの確認を促進する。

これまでは過去の被害データや写真をもとに防災意識を高めたり、訓練を行ったりするのが一般的であった。しかし「VRscope for ハザード」を使用することで実際に起こりうる水害を現実に起こっているもののように体験することができるのだ。これにより、写真や人の話からは被害の深刻さが想像しにくい子供でも防災の重要性を認識することが可能となるだろう。

 

非常食や防災ラジオ、寝袋など、災害が起こった際に役立つテクノロジーは年々進化し、メディアで取り上げられる機会も多いが、今回紹介した「VRscope for ハザード」は災害が起きる前に役立つ新技術である。今後日本や世界で起こりうる災害に備えて行われる、自治体や学校の防災イベントや防災訓練などで「VRscope for ハザード」がどのように役立てられるかこれからも要注目だ。