さまざま業界でDX(デジタル・トランスフォーメーション)が急速に進んでいる現代。データとデジタル技術を活用した新しいサービスが日々生まれています。

とはいえ、データとデジタル技術の活用は“DXの本質”ではありません。

経済産業省がDXのことを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること(引用:「DX 推進指標」とそのガイドライン、令和元年)と説明しているように、既存の組織構造やビジネスモデルに変革を起こすことこそ、DXの本質です。

そんなDXを防災の現場で推進し、自治体における新たな防災システムをつくり、社会課題の解決とビジネスの創出・成長を目指すプロジェクトが、岐阜県大垣市で行われています。今回はそのプロジェクトUrban Innovation OGAKI(アーバンイノベーション大垣)」と、実験の協働企業として採択された防災テック企業3社紹介します。

「Urban Innovation OGAKI」について

ものづくり都市・大垣が「テクノロジー×協働実証実験」で新しい防災に挑む

岐阜県大垣市は「ものづくり ひとづくり都市 大垣」の実現を掲げ、伝統的なものづくり産業からIT・IoTを活用した新しい情報産業まで、多種多様な産業振興策に取り組んでいる地域です。

地理学的な観点で見ると、市は揖斐川や長良川など多くの河川が網目状に流れる低湿地地帯で豊かな自然に恵まれてはいるものの、昔から毎年のように風水害に見舞われており、市内全域で大きな被害が発生しやすくなっています。
また、地盤が柔らかいため、南海トラフ巨大地震(予想最大震度、震度6強)や養老-桑名-四日市断層帯地震(予想最大震度、震度6強)による甚大な被害も予想されており、市を挙げての防災対策が急務となっています。

大垣市は防災に特化したサイトを開設するなど、積極的に防災事業に取り組んでいる(引用:大垣市防災ポータルサイト)

そんな大垣市がアーバン・イノベーション・ジャパン(以下、UIJ)と始めた実証実験プロジェクトが、「Urban Innovation OGAKI」です。

「防災」というテーマに対して大垣市の生活環境部危機管理室が抱える

  • 自宅de防災訓練~ウィズコロナ時代のデジタル防災訓練~
  • みんなの避難所~避難所受付支援システムの開発~
  • 災害時における新たな支援の創出~防災×シェアリングエコノミーの活用による課題解決策~
  • 防災施策のデジタル化に関する自由提案

という4つの課題に対し、技術とアイデアのある民間企業を公募。書類審査や面談を経て採択した企業とともに、自治体における「新しい防災の形」を実証実験で模索し、課題の解決と新たなビジネスの創出、市民サービスの向上や行政事務の効率化など地域全体の成長を目指すという内容です。

アーバン・イノベーション・ジャパンとは

UIJは、スタートアップなど民間企業との協働実験を通じて自治体が抱える社会課題を解決するプロジェクトを運営するNPO団体です。

引用:UIJ公式note

2018年に本格的に始動してから、これまでに全国14の自治体で、業務上の課題をジャンル問わず広く集め、民間企業に公開・提示する形式で解決策を生み出す「協働実証実験」を実施しています。いまでは“社会課題の解決を求める側と引き受ける側の間を取り持つ中間支援型NPO”としては全国有数の実績を誇る団体へと成長しつつあるそうです。

そんなUIJが5年目を迎え、15番目に提携するのが岐阜県大垣市。そして、テーマを「防災」という特定の分野に限定するプロジェクトはUIJにとっても初めての試みだそう。

「Urban Innovation OGAKI」において、UIJは、応募企業のリサーチから選考、実証実験のサポートまで、事務局として大垣市と協力し、プロジェクト運営にあたります。

採択された防災テック企業3社

大垣市生活環境部危機管理室(引用:PR TIMES

2022年1月25日、「Urban Innovation OGAKI」の4つの課題のうち、

  • 自宅de防災訓練~ウィズコロナ時代のデジタル防災訓練~
  • みんなの避難所~避難所受付支援システムの開発~
  • 防災施策のデジタル化に関する自由提案

について、大垣市と連携協定を結んで解決に挑むスタートアップ企業3社が発表されました。(※「災害時における新たな支援の創出~防災×シェアリングエコノミーの活用による課題解決策~」は未成立)

課題1「自宅de防災訓練~ウィズコロナ時代のデジタル防災訓練~」|株式会社スピード

課題1に取り組む「株式会社スピード」(引用:PR TIMES

この課題は、大垣市で例年行っていた防災訓練が新型コロナウイルス感染症による3密回避等により中止が相次いでいることや、防災訓練参加者が高齢化していることから、

  • いつでもどこでも参加できるよう、スマートフォン等を活用したデジタル防災訓練を実施したい
  • 若い人たちが楽しんで参加できる要素を追加した、新たな防災訓練を提供し作りたい

という要望で設定されました。※公募当時の詳しい課題案内はこちらから。

この課題に取り組むのは 株式会社スピード(本社:愛知県瀬戸市、代表取締役:岩木 勇一郎、以下「スピード」)。東京、名古屋、陶都瀬戸にスタジオを構え、3DCG、VFX、2Dなど幅広いデジタル技法を用いたエンターテインメントコンテンツを手がける制作会社です。

防災に特化した会社ではありませんが、デジタル×エンタメ要素を求めている課題は得意分野だと考えられます。

大垣市×株式会社スピードの「デジタル防災訓練システム」

現在、スマートフォンを活用し、ゲーム感覚で防災を学べる デジタル防災訓練システム の開発が進んでいます。

システム画面イメージ(引用:大垣市

2022年1月30日、大垣市の小中学生やその保護者を対象に、ビデオ会議システム「ZOOM」を使った『デジタル防災訓練システムの先行体験会』が実施されました。

参加者は自宅にある防災グッズを登録してポイントを獲得したり、クイズに答えながら楽しんでいたそうです。

スピードはこの体験会で得られた意見や改善点などをもとに、今度もサービス改善に取り組んでいくとのこと。

課題2「みんなの避難所~避難所受付支援システムの開発~」Gcomホールディングス株式会社

課題2に取り組む「Gcomホールディングス株式会社」(引用:PR TIMES

この課題は、近年ますます増加する自然災害の影響で開設頻度が多くなった大垣市の避難所について、①業務をシステム化して迅速に支援をしつつ、②市民が「コロナ禍で3密を避けた避難行動」をとれるよう、

  • 受付で行列が発生したり混み合うのを防ぎ、スムーズに避難所運営をする
  • 将来的には自助、共助、公助の連携が取れるシステムを構築したい

という要望で設定されました。※公募当時の詳しい課題案内はこちらから。

取り組むのは、地方自治体向けソリューションの開発・販売を行う Gcomホールディングス株式会社(本社:福岡市博多区、代表取締役社長:平石大助、以下 「Gcom」)です。

Gcomホールディングス株式会社は、AIとIoTを活用してあらゆる空き情報を配信するスタートアップ、株式会社バカン(本社:東京都千代田区、代表取締役:河野剛進、以下 「バカン」)と提携して、

  • 避難者情報を自動的にデータ化して集計する非接触型の受付
  • 避難所の混雑状況の可視化

など “避難所のデジタル化サービス” を提供し、自治体の防災能力向上を目指しています。このサービスは2021年10月に全国で初めて宮崎県都城市が導入以降、運用を始める自治体が増加の一途をたどっており、今回のプロジェクトにおいても注目されました。

大垣市×Gcomホールディングス「避難所DXサービス」

2021年11月28日、大垣市安井地区で『避難所DX体験会』と題し、「非接触の避難所受付」と「避難所混雑状況配信サービス」を用いた防災訓練が行われました。この“避難所をデジタル化した防災訓練”は、東海地域(愛知、三重、岐阜、静岡の四県)で大垣市が初のことでした。

参加者は、①QRコードをシステムで読み取る方法、②持参した身分証明書(免許証またはマイナンバーカード)を読み取る方法、③口頭による受付方法の3種類を選んで避難者受付を実際に体験。

計測の結果、デジタルを導入すると従来(避難者カードへの記入)の受付方法に比べて、最大80%時間の削減に成功。受付時間が短いほど避難時の対応に対する満足度が高いという相関もアンケートから確認できました。訓練の結果はプレスリリース(※クリックすると開きます)で公開されています。

また、避難所ごとの混雑状況を配信するバカンのサービス「VACAN Maps」を利用して、「避難所受付を済ませると混雑状況が更新される」ことの確認が行われました。

「VACAN Maps」の詳細は別の記事で取り上げていますので、ぜひご一読ください▼

受け入れ拒否に遭わないために。マップ型空き情報配信サービス「VACAN Maps」で避難所の混雑状況をチェック!

課題3「防災施策のデジタル化に関する自由提案」防災備蓄に関する管理情報の見える化

課題3にグループ企業で取り組む「ベル・データ株式会社」(引用:PR TIMES

スタートアップ側から自由な発想・提案を受け付ける課題では、「防災備蓄に関する管理情報を見える化し、他の団体などとも共有することで防災備蓄の最適化を目指したい」という ベル・データ株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:鈴木 明一、以下「ベル・データ」)が採択され、同企業のグループ内にあるベル・ホールディングス株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:中西洋彰)とともに大垣市と連携協定を結びました。

ベル・データは、所属するBELLグループの実施する防災プラットフォーム事業として、地方自治体および自主防災組織が防災備蓄品データを一元的に可視化できる防災備蓄管理システム「BxLink(ビーリンク)」を提供しています。

このシステムは一般的な管理業務にとどまらず、要配慮者や地域外訪問者への最適な防災備蓄の提供ができるのが特徴です。

今後大垣市内と防災DX化に向けた実証実験を行い、通常時の備蓄管理だけでなく、自主防災組織の防災備蓄登録や、防災備蓄の最適化など、防災備蓄システム導入に向けて動き出していくそうです。

BxLinkの詳細は別の記事で取り上げています▼

防災備蓄を一元管理!防災のDX化と官民連携を支えるクラウド型システム「BxLink」

 

まとめ

「Urban Innovation OGAKI」では、今回紹介した3企業と大垣市の担当課職員が協働で実証実験を行い結果をまとめ、2022年2月以降、市内で本格的にサービスを導入するか検討するそうです。

このプロジェクトの舞台は岐阜県大垣市ですが、自然災害の増加や新型コロナウイルスによる環境変化により、全国の自治体で既存の防災計画の見直しと、「新しい防災の形」づくりが重要な課題となっていることは間違いありません。

大垣市の事例が、防災分野での官民連携、広域連携など多くの可能性を広げる一例となることが期待されます。

 

 


参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000072562.html,https://urban-innovation-japan.com/past/past-ogaki-city/,https://www.city.ogaki.lg.jp/0000056316.html,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000088474.html,https://note.com/uij_info/n/n3b6d49bb3265