消防車両が入れない災害現場などで救助活動を支援する自転車を大阪府堺市の消防局が発案し、株式会社T-TRIKE(東京都台東区、瀧本信英社長)と共同で開発が始まりました。実用化に向けて、現在試作が行われています。

災害現場で活躍!電動の災害活動支援自転車

(引用:日刊工業新聞

堺市消防局の要請を受けて開発が進められているのは、電動アシスト機能を搭載した3輪の自転車です。

自転車の幅は1メートル。自動車よりも小回りが効き、段差がある道路でも安定して走行できるよう、衝撃を和らげる独自の車輪制御技術「シンクロシステム」を使用しています。

2つの前輪をチェーンで連結し、連動することで段差などで片輪が上昇すると他方が下降する。世界11カ国で特許取得済み。(引用:株式会社T-TRIKE

がれきだらけの道でも安定走行

(引用:株式会社T-TRIKE

一般的な3輪車だと、悪路や斜面では荷物の重心がずれて機体が倒れる危険がありますが、

(引用:株式会社T-TRIKE

シンクロシステムの場合、上記図のように荷物の重心が常に安定し、段差や濡れた路面などでのカーブや斜面でも転倒の危険が削減されます。

また電動アシスト機能により、なんと10度の傾斜でも重い荷物や人を運べるのだとか。

消防隊員と一緒に救助現場で活用

消防局が災害現場で使用するのを想定し、

  • 消化活動用小型動力ポンプなど重機の運搬
  • 救助にあたる隊員たちへの飲食料など物資供給
  • 怪我人の運搬
  • 複数人を避難させる際の乗り物

などに活用が期待されています。

東京のベンチャー企業が参画

開発に関わるのは株式会社T-TRIKE。3輪電動アシスト自転車の開発製造販売などを行うベンチャー企業です。

過去に堺市と協業で観光用自転車タクシーや、荷物用運搬自転車を運送会社と共同開発した実績があります。

株式会社T-TRIKEとの協業で作られた堺市の観光用自転車タクシー(引用:堺市広報課

平成最大の水害現場で救命にあたった隊員の声で開発が決定

写真提供:国土交通省 中国地方整備局

開発のきっかけは2018年6月28日から7月8日にかけて起きた西日本豪雨(平成30年7月豪雨)。当時発生した台風7号と梅雨前線により連日大雨が続いた、平成時代最大の水害です。

西日本を中心に多くの地域で河川の氾濫や浸水害、土砂災害が起きた影響で6,767棟の家屋が全壊、15,234棟が半壊・一部半壊。200人超の死者・行方不明者と400人以上の負傷者が出る甚大な被害がもたらされました。(参考:「令和元年版 防災白書|特集 第1章 第1節 1-1 平成30年7月豪雨(西日本豪雨)災害」内閣府

土砂で道路状況が悪化。難航した救助活動

写真提供:国土交通省 中国地方整備局

特に今回深刻だったのが土砂災害。被害が集中した県のうち、広島県では5000カ所以上で土石流・土砂崩れが発生し、非常に多くの人々が犠牲になってしまいました。(参考:「西日本豪雨:広島南部土砂災害5000カ所超 分布図分析」毎日新聞

写真提供:国土交通省 中国地方整備局

西日本高速道路などにも49カ所で崩落や土砂の流入が起こり、最大2,299kmが一時通行止めになるなど、交通網にも大きな影響が出ました。(参考:「平成30年7月豪雨による高速道路の被災状況及びNEXCO西日本の取り組み」NEXCO西日本

この時、大阪府の堺市消防局は100人以上の隊員を広島市や東広島市の災害現場に派遣。しかし現場は倒れた家やがれきが散乱しており、緊急車両が進入できない状況にありました。

写真提供:国土交通省 中国地方整備局

救助隊員は徒歩移動が余儀なくされたうえ、現場で作業するために必要な飲料水などを、本来であれば救助活動にあたる人員を割き、背負ったり持ったりして運ばざるを得なかったといいます。隊員からは「救助活動に人員を割きたい」という声が上がったそうです。

こうした経験から堺市消防局は、市が自転車産業の根づく街として観光PR用に開発していた“自転車タクシー”に協業する株式会社T-TRIKEへ「災害現場で物資を運べる自転車をつくって欲しい」と提案し、今回の自転車開発が始まりました。

 

各種部品やフレーム、組み立てを市内メーカーで完結させる“堺産”を構想しており、製品化は2022年度を目指しているとのこと。完成後は全国の消防局に販売される予定です。

実用化が始まれば、災害大国日本においてさまざまな現場での救助活動がよりスムーズなものになりそうですね。

参考:https://newswitch.jp/p/26896、https://www.asahi.com/articles/ASP4K74PJP4FPPTB001.html