災害は未然に防ぐことが一番良いが、起こってしまった時は早期発見、早期対応が大規模化するか否かの鍵を握る。そして災害が起こっているかどうかは、現場にいる人の「目」が頼りになる。
私たちは、目で見たもの、耳で聞いたもの、そして体験したことを短いフレーズに乗せて、SNSという巨大な渦の中へ放っていく。
今回富士通が開発したものは、その渦の中から確実性の高い情報を取捨選択し、写真や位置情報などを分析して、いつ、どこで、何が起こったかを推定し、現場での初動を早めるためのシステムである。

ツイートから発災を推定する

画像:FUJITSU JOURNALより引用

具体的な手順は以下である。
①Twitterの発言(ツイート)から、「冠水」「浸水」など災害に関するキーワードを含むツイートを収集し、伝聞情報を除去する。
②発言者の居住地を推定し、ツイートを都道府県別に分ける。
③発言数の急増を捉えて、都道府県単位で災害の発生を推定する。
④災害推定時刻以降のツイートを用いて、市町村を推定する。

自治体の防災減災の担当者に伝えることによって、近隣か遠方か、被害の拡大が速いのか遅いのかなどの情報により、避難勧告など減災の呼びかけをより安全性の高いものにすることが可能となる。

大衆的なSNSとしては、Facebook、LINE、Twitterなどがあるが、その中でTwitterに着目した理由は、
①リアルタイム性:その場で見聞きしたことをすぐに発信するユーザーが多い
②拡散力:他者の発言を再投稿するリツイート機能があるため、情報の拡散力が高い
③オープンデータ:Twitterに登録していなくともツイートが見られるなど、他のSNSよりオープンである
以上のことが挙げられる。
今すぐ書くことができ、今すぐ広められ、誰でも見られる、という特徴が今回のシステムと相性が良かったのだ。

有用性の検証

このシステムが減災に役立つのか、特徴の異なる2つの災害事例を用いて検証した。
・人口集中地かつ発生頻度の高い災害(2012年8月14日京都府宇治市豪雨における洪水災害)
・中山間地かつ発生頻度の低い災害(2012年九州北部豪雨災害において7月12日熊本県内で発生した土砂災害)
前者では家屋流出の1時間後に浸水・冠水の発生を検知し、後者では発言数の増加から土砂災害の発生を推定し、さらに位置情報を分析することで災害の発生場所を推定することができた。同日に近隣エリア11市町村で土砂災害が発生していたが、その内8件をツイートから推定できた。

以上の検証から、災害発生を迅速に把握できることが示された。

ICTで被害を最小限に


今後は実用化を目指し、発災推定技術そのものの精度を高める研究を進めるとともに、電話通報など従来の情報とは異なる本システムによる情報を、どのようにして災害対策の現場に導入していくかという検討も行なっている。
システムで集約した情報を現場に転送するのか、システム自体を各自治体に導入していくのかによっても変わる。

特定エリアの災害の影響を押しはかり、そのエリアの担当者が避難勧告を出す際に判断材料にすることはもちろん、その情報を元にして被災エリアと近隣エリアの担当者が連携を取れるとなお良い。
縦の情報送付だけでなく、よりリアルな情報を横で共有することも重要だ。最終的な要は現場そのものである。

例えば今回の情報を届ける時にアプリやブラウザという形にする場合、その情報共有プラットホーム上で支援物資や支援活動の状況も共有できると、より使い勝手が良いと思う。
被災者が個々の都合に合わせて避難活動をしやすくなるので、一般市民にもアプリやブラウザを公開するべきである。
AIの開発が進んでいくと、その人にとっての最適な避難経路の提案もしてくれるようになるかもしれない。

ITで自然災害の発生を制御することは難しくとも、ICTでその被害を最小限に抑えることは可能そうだ。