災害時に被害状況やライフラインの復旧状況などの「情報」へすぐアクセスできることは、不安を軽減するだけでなく、命を守るために重要です。情報があれば今後の災害危険性を把握し、今いる場所での適切な避難行動を自分で判断することができるようになるからです。スマートフォンが普及した現在、国や自治体、企業などが率先して、SNSや防災アプリ、メールのプッシュ通知など、人々のもとへ災害情報を迅速に届ける工夫をしており、災害時の情報収集手段は充実してきています。
一方で、デジタルに不慣れな高齢者など「スマートフォンを持っていない方」はそれらの情報にアクセスできないのも事実です。また、緊急性の高い情報ほど即時性が大事なので、サイレンや防災無線などの「音」で情報が発信されやすい傾向があります。その場合、加齢や障害で「聴覚が不自由な方」は気がつくことができず、逃げ遅れる可能性が高いことが問題視されています。
今回は、「災害時に情報を受け取れない可能性のある人々」を防災の課題として捉え、解決を目指す横浜市の取り組みに採用された“防災×テクノロジー”を紹介します。
横浜市が取り組む防災テクノロジーとは?
デジタルテクノロジーで「誰ひとり取り残さない社会」を
横浜市は2022年8月に『横浜DX戦略』という方針を打ち出し、「すべての人にデジタルの恩恵を行きわたらせ、デジタルによって社会課題解決を目指す」ことを目的としたさまざまな取り組みを進めています。
その一環として、2022年10月に市民の危機対応力の強化に向け、
- スマートフォンを持っていない方
- 加齢や障害で聴覚に不安のある方
などを対象に、災害時の緊急情報を伝達する実証実験を始めました。
実証実験で採用されたのはイッツ・コミュニケーションズ株式会社が提供する「テレビ・プッシュサービス」です。
使い慣れたテレビで安心・便利を届ける「テレビ・プッシュサービス」
「テレビ・プッシュサービス」イメージ図(引用:PR TIMES)
緊急時には自動でテレビがON!視覚&聴覚情報で確実に情報をお届け
テレビ・プッシュサービスは、災害等の緊急時にテレビで大切な情報をお届けするという内容の月額制有料サービスです。
番組放送中に緊急事態が発生した際、テロップで流れる「緊急地震速報」などではありません。
テレビ・プッシュサービスではテレビの電源がオフになっていても、専用端末が自動でテレビの電源を入れて、文字や画像、光と音声で情報を伝えてくれます。
テレビ番組を見ている時に災害が発生した場合は、自動で画面を切り替わり情報が大きく表示されます。リアルタイムに放送中の番組だけでなく自分で録画をした番組を見ている時でも、緊急時には強制的に画面が切り替わり、確実に情報を得ることができます。
日頃の情報収集にも使える!導入も簡単
配信情報は防災だけでなく、「電車の運行情報」や「自治体からのお知らせ」などサービス加入者がライフスタイルに合わせて選べるようになっています。日頃から必要な情報に取り残されず、安心・便利な暮らしを送る手助けにもなることは間違いありません。
サービスの利用方法は、インターネット回線のある環境でテレビに専用端末(IPボックス)を繋ぐだけでOK。デジタル機器の扱いが不慣れな人でも簡単に導入できるのもポイントです。
テレビ・プッシュサービスは一般社団法人防災安全協定制定「防災製品大賞2018」の「防災製品部門」において金賞を受賞しており、防災サービスとして高い評価を得ています。
テレビ・プッシュサービス事業化に向けて
これまで横浜市では、災害情報をテレビやラジオ放送、緊急速報メール、SNS、ホームページ、防災スピーカーなどで発信してきましたが、スマートフォンを持っていなかったり聴覚に障害のある方は、情報量や情報の即時性について課題があると考えていました。そこで防災に関するアンケートを行った結果、多くの人がテレビで緊急情報を取得していることがわかり、テレビを通じた効果的な情報伝達方法として、テレビ・プッシュサービスを実証実験に採用したそうです。
テレビ・プッシュサービスの実証実験は、2022年10月上旬から2023年1月末まで、横浜市中区及び港北区を対象地区として行われ、実証実験後のアンケート結果を踏まえて事業化へ向けての検討を行うとのことです。
まとめ
災害時の情報発信や情報収集の手段は、スマートフォンの普及で便利になりました。反面、デジタルに不慣れな高齢者や聴覚障害のある方など情報をタイムリーに入手しづらい人々は、災害時の避難活動等に影響を受けやすい傾向があります。災害被害を小さくするには、情報弱者となりやすい立場の人々でも即時に適切な情報を受け取れる仕組みが必要です。
横浜市が実証実験で採択した「テレビ・プッシュサービス」は、多くの人が使い慣れているテレビを活用することで、迅速に情報が届くようにしています。「誰ひとり取り残されない社会」に向けた横浜市の取り組みや防災テクノロジーは、今後も注目していきたいところですね。
参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000012.000099300.html、https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/11051