突然ですが、皆さんの考える「防災」はどんな自然災害に備えるものでしょうか?地震、台風、火山の噴火……日本で起きる自然災害にはたくさんの種類があります。「災害発生→避難行動」という大まかな流れは共通していても、発生する災害によって備えの内容というのは多少変わってくるはずです。例えば、地震に備えて設置した突っ張り棒は、火山の噴火に対して効果があるかといえばそうではありませんよね。

また、自然災害はその時の環境によって「発生しやすさ」や「被害の大きさ」などが左右されます。数年前はあまり危機感を持たなくてもよかった種類の災害でも、年月を経て発生の頻度・危険度が高くなっているかもしれません。

今の自分はどんな災害を怖がればいいのか?

防災に対する意識を時折アップデートしていきましょう。

災害

2022年9月10日に「世界の自然災害の経済損失額ランキング 1位と2位は東日本大震災と阪神淡路大震災」という記事が公開されました(参考:マネーポストWEB)

記事内では「日本の災害損失額は世界に対してどの程度であるか」が言及されています。これまでに経済損失の多かった自然災害事例を上位10位までランキング化した表(図1)によると、2011年に発生した「東日本大震災」と1995年に発生した「阪神・淡路大震災」がトップ2であることが明らかになりました。

地理的には小さな島国ですが、世界レベルでも甚大な被害をもたらす災害に晒されてきたのが日本という国であることがわかりますね。

2022年8月末にはジェイアイ傷害火災保険株式会社が、国内各地域の20〜60代の方々へ「不安に思う災害」について独自に尋ねたアンケート結果を「災害不安ランキング」として発表しました。

これによると、国民が不安に思う災害は「地震」他の自然災害に大きな差をつけての1位となりました(図2)。

冒頭で紹介した「経済損失額の世界ランキング」の通り、日本の「地震」は世界的に見ても大きな被害をもたらすものであることは確かであり、国民にとっても「発生したら怖い災害といえば地震」というイメージが浸透していると考えられます。

また、災害に不安を多く感じている年代もランキング化されており、比較的目立つ差はないものの、「40代」が最も災害に不安を感じていることが明らかになりました(図3)。

40代の方々は、働き始めの20代の頃に阪神・淡路大震災を、子育て中の30代の頃に東日本大震災を経験しています。世界トップ2の経済損失額を出したこれらの地震が記憶に新しいため、災害に対する危機感が他の世代に比べて特に強くなっているのではないかと考えられます。

意識するのは「地震」だけでいい?

では、私たちは今後も「地震」の備えを強化していけば良いのでしょうか?

実は、単純にそうとは言い切れません。

2021年9月に、危機管理情報を収集・解析し、官公庁や自治体、民間企業、報道機関などに提供しているスペクティ社(東京都千代田区)が「都道府県別の年間自然災害損害額」というレポートを発表しました。

レポート内では「過去3年間(2017年~2019年)に発生した自然災害による損害額の年平均を算出し、日本列島を色分けした地図(図4)」が掲載されました。

経済損失を都道府県別に可視化しているこの地図からは、自然災害が地域に与えるダメージがより明確に感じられます。

この地図内で最も被害の大きかった5県(福岡県・広島県・長野県・福島県・宮城県)と北海道で、対象の3年間(2017年~2019年)にどのような災害があったかを示し、グラフ化したものが下記の図5です。

このグラフで興味深いポイントは「北海道胆振東部地震(2018年9月6日発生)より、福岡県や広島県で発生した7月豪雨(2017年・2018年)や長野・福島・宮城を襲った台風19号(2019年)の方が経済損失額で上回っている」という点です。

北海道胆振東部地震は、震度7に加えて北海道ほぼ全域が停電するという大規模な災害でした。死者は43人、負傷者は782人。建物は469棟が全壊し、15,000棟が半壊・一部破損、経済損失額は約292億円と発表されました。

地震の怖さが改めて感じられたと思いますが、実は経済損失額という点から見ると、グラフを見ての通り7月豪雨や台風19号による風水害という“水関連の災害”の方が、地震よりも経済損失額が断然大きくなります。

スペクティ社・取締役COOの根来諭さんによると、

「地震は広範囲の土地が揺れて建物が倒壊したり二次災害の危険が高まる恐ろしい災害ですが、ある意味、一瞬で終わります。対して水害は広範囲で物が流されたり、家や車が水没し、橋や道路、鉄道などのインフラが破壊され、損失額という点では地震を上回るほど大きいといえるのです。(引用:マネーポストWEB)」

とのこと。地震はとても怖い自然災害であるものの、発生後に大きな経済損失をもたらす自然災害は「水害」なのです。

高まり続ける「水害」の脅威

近年、雨の降りかたが明らかに変わってきていると感じる方は多いのではないでしょうか。

図6のグラフは気象庁の地域観測システム「アメダス」のデータです。緑色の棒グラフは各年の年間発生回数を示しており、青線は5年移動平均値を、赤線は長期変化傾向(この期間の平均的な変化傾向)を示しています。

限られた地域で時間雨量が50mmを超える短時間の雨(ゲリラ豪雨)の年間発生回数は、1976年の観測開始時から2021年までで、10年あたり27.5回増加しています。ちなみに、今年2022年の1月〜9月までにはすでに366回のゲリラ豪雨が観測されています。

こうした雨の増加は地球温暖化による気温上昇が原因ではないかと言われています。

図7のグラフは日本の平均気温の推移を表した気象庁のグラフです。黒線が各年の平均気温の基準値からの偏差、青線が偏差の5年移動平均値、赤線が長期変化傾向を表します。

日本の平均気温は1898年以降、100年あたりおよそ1.2℃の割合で上昇しています。「これまで沖縄県周辺のみであった亜熱帯気候が日本全体の気候へと変わりつつある」と警鐘を鳴らす専門家たちもいます。

気温が上昇すると海水面の温度が上昇し、海水面から蒸発する水蒸気量が増加します。そして大気中の水蒸気量が増え、降水量の増加につながります。気象研究所からは「今世紀中に地球温暖化によって日本を通過する台風の移動速度が約10%遅くなる」という論文も発表されており、水害はますます脅威を増していくことが考えられます。

冒頭で紹介した「世界の自然災害の経済損失額ランキング 1位と2位は東日本大震災と阪神淡路大震災」の記事内では、2021年の世界中の自然災害による経済損失を災害の種類別に分類したグラフも紹介されています(図8)。

このグラフからも、洪水・暴風雨・熱帯低気圧などの“水関連の災害”がいかに発生率が高く、甚大な影響をもたらす災害であるかが分かります。

しかし国内では68.2%の家庭で水害対策が十分にできていない」というアンケート結果(参考:「~2022年度 家庭の防災対策実態調査~」ミドリ株式会社)など、水害を意識した備えがまだまだ浸透していないのが現状です。

今後私たちは水害の脅威をしっかりと認識し、水害への対策を強化していく必要があるかもしれません。

まとめ

これまでの災害事例により「地震」に対する国内の人々の不安や危機意識は高く形成されており、防災を考える上で地震をイメージしない人はほぼいないと言えるでしょう。しかし、いま実際に遭遇する確率が高く、また経済損失額という点からも甚大な被害をもたらすようになっているのは「水害」です。そして今後状況が変われば、また別の自然災害のリスクが高くなるかもしれません。

災害に対するイメージを日頃のニュースや公表されるデータから正しくアップデートしていくことを心がけ、実際に防災対策を行っていきたいですね。