新型コロナウイルス感染症で、人と人との間に社会的距離(ソーシャルディスタンス)の確保が求められるようになりました。それをキッカケに、社会のさまざまな分野で「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」という概念への注目と転換が進みつつあります。人々の行動様式がコロナウイルス感染症によって強制的にデジタル化されている現在、防災訓練の現場でも、DX化の波が広がり始めてきました。

今回紹介するのは、2021年10月に熊本県が実施した「避難所DX体験会」についてです。

避難所DXを防災訓練で市民が体験!

2021年10月に、熊本県人吉市と宇城市は“防災訓練を通じて住民にデジタルを身近に実感してもらう”「避難所DX体験会」を開催しました。

この体験会は、熊本県が地方自治体向けソリューションの開発・販売を行うGcomホールディングス株式会社(福岡市博多区、代表取締役社長:平石 大助、以下「Gcom」)と実証を進めている避難所のデジタル管理サービスを、防災訓練に参加した市民に利用してもらう取り組みです。

実証を進めるデジタル管理サービスとは、ひとことで言えば、「避難所・避難者の情報をデータ化し、管理・分析・配信する」サービスです。

避難所DX体験会では、「マップ型リアルタイム混雑情報配信サービス」と「非接触型スマート受付」が紹介されました。

①「混雑情報配信サービス」で空き避難所を被災者がチェックし、“密”を作らない

「マップ型リアルタイム混雑情報配信サービス」はアプリなどのダウンロード不要で、利用者がパソコンやスマートフォン等でアクセスするだけで、各避難所の位置や混み具合を確認できます。あとから紹介する「非接触型スマート受付」の避難者データと連動しているため、リアルタイムに避難所の混雑状況が更新されるのが特徴です。

このサービスを使えば、住民がみずから“空き避難所”を探して分散避難できるようになります。足を運んだ先が定員オーバーで避難できずにいるという避難所難民の発生を回避しやすくなります。

避難所に人が大量に押し寄せることが減れば、運営側の案内業務が軽くなるのもメリットです。

②受付での待ち行列を解消する「非接触型受付サービス」

従来、市民が避難所へ入り生活支援を受ける時は、受付で「避難者カード」の記入が必要でした。

災害が発生すると短時間の間に多くの避難者が訪れるので、受付先で記入を行なっているとすぐに行列ができてしまいます。自治体では避難者カードをネットで公開し、印刷をして事前記入をしてほしいと呼びかけていますが、事前記入ができなかったり忘れていたり、現地で書くケースがまだまだ多い現状があります。

今回、「事前にユーザー登録をした2次元バーコードの提示による受付システム」や「マイナンバーカードや免許証といった身分証をカメラ式OCRで読み取るシステム」が紹介されました。これらは避難者の情報を非接触かつ自動的にデータ化し、管理・分析することができます。

受付のデジタル化は、避難者が手書きでカードを用意する手間や、運営側がカードを元に管理する負担をなくし、双方の負担と避難所受付で発生する行列の解消ができると考えられています。

また、受付で読み込んだデータは先程紹介した「マップ型リアルタイム混雑情報配信サービス」に自動で反映されるため、いちいち運営側が避難所の混雑状況を伝えるために現場で人数を確認する負担が減ります。避難者にとってもリアルタイムで正確な情報が手に入るようになります。

避難所でDX化が求められるわけ

今回の体験会で紹介されたサービスは、避難所での“密”や行列の発生を抑え、運営の省人力化・効率化が期待されています。しかしなぜこのことが、いまの防災に求められているのでしょうか。

コロナ時代は、避難者の管理環境に変化が求められる

数年前までの避難所は、災害下で人が押し寄せたとしても、ぎゅうぎゅう詰めになりながら生活をすることができました。

ところが、近年は新型コロナウイルスの流行をキッカケに、人が“密”を作る場所で、感染症の広がるリスクが懸念されるようになりました。

限られたスペースしかない避難所で、一人ひとりにソーシャルディスタンスを確保しようとすれば、各避難所で収容できる人数は少なくなります。そうなれば、避難所へ移動した先で入ることができず、たらい回しになったり、「避難所難民」となる人々が現れるのは間違いありません。

また、避難所を運営する人々は、災害への対応や被災者のケアに加えて、感染症対策も徹底しなければなりません。ただでさえ避難者の誘導や受付での情報登録、定期的な情報集計や共有、備蓄物の管理など多くの作業が発生している現場の担当者たちが、感染症にも気を回すとなれば、過労や混乱状態になるのは目に見えています。

実際、感染症に配慮した現場を整えようと運営側が労力を割いた結果、避難所に押し寄せる人々の受け入れ窓口が滞ったケースが、国内で確認されているといいます。コロナ禍の最中に水害の発生した地域で、市民が雨の中、運営の受け入れが滞っていたために、避難所の受付に大行列をなしたことがあったそうです。

つまりコロナをキッカケに、これまで避難所が用意してきた環境では人々の安全を確保することが難しくなり、運営を見直す必要が出てきたのです。

頻発する災害に強い、新しい避難所を目指して

熊本県は「令和2年7月豪雨」によって起きた球磨川氾濫洪水からの復興を進めているところであり、ここ数年、頻繁に水害が発生し続けている地域です。全国的にも大雨などの被害が大きくなっているいま、避難所の求められる機会は着実に増えています。

コロナ時代の災害下で市民の安全を守るため、九州でいち早く、避難所の防災訓練にデジタルシステムを取り入れました。

まとめ

避難所におけるDX化は、運営の効率化による運営者の負担軽減と利用者の利便性向上の両立が期待されています。今後も全国的に、市民がDXを体感する防災訓練が増えていくでしょう。

 

画像の引用や参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000088474.html