1916年創業の畳・家具づくりの専門店、広浜株式会社(代表取締役:上川力、本店:広島県山県郡北広島町)が畳を使った段ボールベッド「カラートン」を提案しました。近年、各地の避難所で導入が進んでいる「簡易ベッド」の選択肢として今後注目を浴びそうです。

休みたいのに休めない避難所環境の問題

引用:災害写真データベース|平成21年(2009年)7月中国・九州北部豪雨

安らぎのない避難所生活は命に危険が及ぶことも

大規模な災害が起きたときは、多くの人が身の安全を確保するために避難所へ避難するでしょう。しかし、避難をすれば安心できるかといえばそうとは限りません。被災状況を目の当たりにしたり命に危険がおよぶ経験をしたりすれば、程度の差はあっても、誰でも不安や心配などを抱えてしまいます。そうした状態のまま、大勢の他人がいる空間で生活しなければならないのです。いつも以上に気が休まらず、精神的にかなり辛くなるであろうことは想像に難くありません。

過度なストレスは身体的な病気を引き起こしたり、持病を悪化させたり、最悪の場合は命の危険にも関わることがあるので注意が必要です。ストレスを緩和するには、まずできるだけ睡眠を取ること、そのために落ち着いて休める環境を確保することが大切です。

しかし、残念なことに落ち着いて休める環境のある避難所は少ないのが現状です。プライバシーや衛生管理など、避難所の環境で解決しなければならない点はたくさんありますが、睡眠に関しては「床が硬くて眠れない」という問題がまず第一に挙げられます。

学校や公共施設など避難所として使われる建物の床というのは、私たちが普段暮らす家屋の床とは異なり、冷たくて硬い場合がほとんどです。国内では長い間、その床に直接シートや毛布などを敷き、いわゆる「ざこ寝」の状態で睡眠を取ることが当たり前であり、仕方ないこととして行われてきました。

このような環境では床の硬さや冷たさが体へダイレクトに影響し、十分に休むことができません。人間の体は起きている時に強いストレスを感じても、しっかり眠れさえすれば少しでも回復することができます。ところが、硬い床の上では体が緊張しっぱなしになり、眠れないどころか筋肉や骨を痛めたり、余計に疲労やストレスをためこむ原因になってしまうのです。また、硬い床は熱伝導が悪く体温を奪うため、季節によっては低体温症の原因ともなることがあります。

2011年に発生した東日本大震災では、震災がきっかけで体調を悪くして亡くなった「震災関連死」のうち、避難生活による肉体・精神的疲労が原因となったケースが47%にのぼったことが報告されています(参考:復興庁「東日本大震災における震災関連死に関する報告」)。避難所の床が直接的な原因とは言えませんが、疲労を緩和できる環境がなかったというのは事実でしょう。せっかく災害発生時に助かった命が避難生活で失われてしまうのはとても悲しいことですよね……。

改善の鍵は簡易ベッド。注目の素材は「段ボール」

こうした状況を経て、近年は医師や防災の専門家が「避難所における床上での睡眠はエコノミークラス症候群(長時間同じ姿勢でいるなどが原因で血栓ができ、呼吸困難や胸痛、失神、最悪の場合は死に至る病気)を発症したり、健康への悪影響が多いため避けるべき」と警鐘を鳴らすようになりました。そして全国的に避難所の睡眠環境が見直されつつあり、「簡易ベッド」を導入する自治体や避難所が増えてきています。

簡易ベッドは使わないときに折りたたんで収納できるため、非常用の備品として適しています。簡易ベッドには金属やナイロン、ウレタンなど様々な素材のものがありますが、中でも注目されている素材が「段ボール」です。段ボール製の簡易ベッドは一般的に「段ボールベッド」と呼ばれています。東京2020オリンピックの選手村で使用され話題になったこともあり、ご存じの方もいるかもしれませんね。

段ボールベッドには下記のようなメリットがあり、各地で導入が進んでいます。

・金属やパイプ製などの簡易ベッドと比較してコストが安い
・工具を使わず、素手で組み立てられる
・処分が簡単でリサイクルできる
・段ボールは多層構造のため、空気の層ができて暖かい(保温性が高い)
・床との距離を十分に保てるため、床上のウイルスやホコリの吸い込みを防げる
・程よい弾力があり、足腰の負担を減らせ、エコノミークラス症候群の予防に役立つ

しかしながら、どうしても「紙」という性質上、体と接する面で汗や呼気などに触れ続けて湿気たり、飲み水などをこぼして汚れたりしてしまうと、ダンボールベッドは衛生面も強度も悪くなってしまいます。避難所では食事をしたりなど寝る時以外も簡易ベッドの上で過ごす可能性もあることを考えれば、水分に弱いことは致命的です。また、防災用品はいざという時に備えて長期間保管されますが、保管状況によっては湿気で使えなくなってしまいます。ダンボールは簡単に燃やせるので処分に困ることはないものの、短期間で処分せざるを得なくなると、新しく補充するためにコストがかかり続けます。

近年は気候変動の影響で台風や豪雨災害が頻発しており、避難所で簡易ベッドが活躍する機会はこれからますます増えるでしょう。しかし使うたびに捨てていたら、コスト面でも、資源を大切にする動きが尊重されている今の時代の流れとしても、あまり好ましくありません。

今回紹介するのはそうしたデメリットを補うことが期待できるサスティナブルな段ボールベッド「カラートン」です。

心と体の負担を軽くする、段ボールベッド「カラートン」

高耐久で繰り返し使えるサスティナブルなベッド

カラートンは創業100年を超える畳・家具の製造販売会社、広浜が手掛ける段ボールベッド(簡易ベッド)です。段ボール素材を組み立ててベッドのフレームを作り、上に「畳表」を敷いて使います。

組み立て前の素材は幅99×奥行き57×厚さ11cm、重さは約4.7kgと軽く、持ち運びや収納スペースに困りません。

引用:PR TIMES

組み立てに大きな力や工具は必要ないので、子どもからお年寄りまで簡単に扱えます。組み立て後の1フレームは幅98×長さ192×高さ34cm。フレーム同士をブロックのように連結させることで、腰かけベンチやテーブルから簡易ベッドまで、幅広いシチュエーションに対応します。

高さ34cmは腰掛けやすく、立ち上がりもしやすい(引用:PR TIMES

工場試験場にて400kgの荷重試験をクリアしており、静荷重で200kgの対荷重強度を誇ります。

引用:PR TIMES

ポイントはプラスチック性の「樹脂畳」

引用:PR TIMES

カラートンのポイントは、人が座ったり寝転んだりする面に敷く「畳表」です。これがあるだけで段ボールではなく家具らしい印象が強まって見えますよね。

この畳は井草などの天然素材を使った昔ながらの畳ではありません。ポリスチレンやポリプロピレンなどプラスチック系の素材でできた「樹脂畳」です。

「樹脂畳」は樹脂ならではの程よい弾力性があります。段ボールのやわらかさと樹脂畳の弾力性の両方により、まるで家屋の和室で寝るような感覚で横になることができます。

プラスチックなので水分を吸収せず、段ボールや井草と比べ、寝転がった際の汗などによるベタつきも軽減されます。湿気を溜め込まないのでカビやダニ、雑菌が発生しづらく、表面に汚れがついても水拭きができるので清潔に使えるという点もメリットです。劣化もしにくいので保管もしやすく、お手入れをして繰り返し使うことができます。

引用:PR TIMES

樹脂畳は単体で置き畳として使ったり、フレームのダンボールと一緒に燃やし、着火剤や燃料として利用することも可能です。

樹脂畳は芯材に木材ボードを使用(引用:PR TIMES

プラスチックは燃やすと有害物質が出るものだと思われがちですが、実際のところ、プラスチック単体での完全燃焼で有害物質が発生することはありません。有害物質が出るケースはポリ塩化ビニルなど“塩素”を含むプラスチックの場合であり、主に炭素と水素からなるプラスチックは、理論上、燃やしても炭酸ガスと水蒸気だけしか出てこないのです。樹脂畳は塩素を含まないプラスチックなので、燃やしても人体や環境への負荷は低く、環境にやさしい製品です。

「なごむ見た目」で落ち着きのある空間が生まれる

引用:PR TIMES

樹脂畳がもたらす利点は機能面だけではありません。

いまや生活の中で畳を見ることは少なくなりましたが、わたしたち日本人の中には古くから受け継がれてきた畳に対する「和」や「なごみ」の感情がまだまだ色濃く息づいています。段ボールむきだしではなく表面に畳があるという見た目だけで、視覚、触覚による安心感は大幅に増します。

不安になりやすいときにこそ、安らぎを感じられる見た目のものが近くにあることは重要です。非日常感を感じやすい避難所でも、家屋の畳に近い環境で寝たり起きたりできると、少しでも気持ちが落ち着き、ストレスの緩和につながりそうです。長年、日本人の生活に寄りそう畳作りを手がけてきた老舗メーカーならではの着眼点を感じられますね。

引用:PR TIMES

さらに、組み立て素材の入っていた外箱をパーテーションとして使用すれば、プライバシーを確保でき、より心の安心感が得られます。避難所でもゆったり体を伸ばし、リラックスして過ごすことができるようになるでしょう。

まとめ

避難所生活では心身の疲労やストレスがいつも以上にたまりやすくなります。疲労やストレスが蓄積しすぎると、最悪の場合はせっかく助かった命を失ってしまいかねません。避難所でのストレスケア、特に眠れる環境を確保することは被災後も生き延びていくためにとても大切です。

カラートンは日本人にとって親しみ深い「畳」を活かした段ボールベッドで、避難者たちに物質的な快適さだけでなく精神的な安らぎをもたらしてくれます。また、毎回使い捨てるのではなく繰り返し使えて余すところなく利用できるため、頻発する災害だけでなく資源環境問題にも対処しなければならない今の時代にあったサスティナブルなアイテムと言えるでしょう。

カラートンのように、避難所生活が原因で失われる命が少しでも減らせるよう、避難所の環境改善に取り組む製品については今後も注目していきたいですね。

 

 



参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000105588.html、https://www.kouhin.jp/news/pr-times%E3%80%80%E8%A8%98%E4%BA%8B%E6%9B%B4%E6%96%B0%E3%81%AE%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B%E3%80%80/、https://www.kouhin.com/c/tatami-bench/59130xx11xs04