日本人の食卓に欠かせないご飯、その米を作る際に大量に排出され、廃棄処理について農家を悩ましている「もみ殻」をご存知でしょうか。今回はそんなもみ殻を活用した“燃料”と、防災への使い道をご紹介します。
もみ殻から生まれた燃料「モミガライト」
上の写真を見てください。まるで小ぶりな丸太を刻んだような見た目ですね。これが今回紹介する固形燃料「モミガライト」です。
木のように見えるモミガライトですが、原材料は100%「もみ殻」でできています。
特性としては以下の3つが挙げられます。
1. 燃焼時間や発熱時間が長い
機械によってもみ殻を元の10分の1程度に圧縮成形しているため、密度が高く長時間にわたり燃焼します。薪に比べて火力も強く火持ちが良いうえ、燃焼後は炭化状態が続き、遠赤外線の輻射熱(放射熱)で長い間発熱します。(動画引用:株式会社トロムソ)
2. 保存期間が長い
製造段階で高熱が発生するため水分が均一化し、虫や菌などの異物も排除され、長期保管に適した燃料となっています。湿気にとても強く、水に濡れないかぎり10年程度の保管が可能です。
3. 還元性が高い
燃焼後は固形灰として残ります。灰には植物の細胞の働きを強化するケイ素(シリカ)が多く含まれており、畑やガーデニングの土に撒き、土壌改良の肥料として土に還元することができます。
モミガライトは家庭用薪ストーブやアウトドアレジャーの燃料など、火起こしが必要なシーンで活躍します。
モミガライトは防災分野にどう役立つ?
コストパフォーマンスに優れたエコ燃料として
防災分野では、モミガライトは「災害時における非常用備蓄燃料」の代替燃料(バイオマス燃料)として期待できます。
大きな災害が起き、ライフラインの復旧に時間がかかる場合、暖を取ったりお湯を沸かすのに燃料が必要になります。避難所では、暖を取ったりお湯を沸かすための手段として、灯油ストーブやカセットガスコンロなどの器具を用意していることがあります。しかし、それらを動かす燃料である灯油やガスなどの燃料は劣化しやすいため、保存方法に注意が必要です。灯油用のポリタンクは寿命が5年なので、定期的に入れ替えるコストも発生します。保管スペースも、器具と燃料、両方を置ける広さを確保しておかなければなりません。
モミガライトは雨に当たらない室内であれば最長で10年保存が効きます。2kgで灯油1リットルとほぼ同様の熱量を持ち、燃料費は灯油に比べて安価。専用の器具も必要なく、着火するだけで誰にでも簡単に使えます。
また、石油や石炭を燃やす際には咳や気管支炎などを引き起こしたり大気汚染の原因となる可能性のあるイオウ酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)、二酸化炭素(CO2)が発生しますが、モミガライトはそうしたガスを燃焼時にほとんど発生させないのも特徴です。大勢の人が集まる避難所で暖を取る手段としてむいていますね。
コストパフォーマンスに優れており、環境にも人にも配慮した燃料、モミガライト。避難所での使いやすさ、管理のしやすさが着目され、非常用備蓄燃料としてモミガライトを導入する自治体は増えているそうです。
モミガライト開発の背景
そもそも「もみ殻」とは?
もみ殻は成長した稲が穂先につけるもみの一番外側にある固い皮のことを指します。私たちに馴染み深い「米粒」はたくさん栄養があるため、自然界の中では病害虫に狙われやすい部分。もみ殻はそれを病害虫から守る役割をはたします。とても硬いため食べるのには向いておらず、米農家は収穫後に行う「もみすり」という作業でもみ殻を外し、玄米や白米まで精米していきます。
農家を悩ませる「もみ殻の廃棄処理問題」
全国の稲作地域では毎年およそ160万トンのもみ殻が排出されているといわれています。
かつてはもみ殻を廃棄するために野焼きで焼却する農家もありました。現在は野焼きで発生する煙などによる近隣住民への悪影響が問題視され、もみ殻は「産業廃棄物」として「産業廃棄物処理法」により野外での焼却が禁止されていることがほとんどです。
業者に有償処理を頼む米農家もありますが、1トンあたり10000円以上のコストがかかるため、土に混ぜて肥料とするのを試みる米農家もあります。焼却コストはかからないものの、もみ殻は土壌で分解されにくい性質のため肥料的品質や効能が良いとはいえず、翌年の稲作に影響が出るケースも……。そのため、大量のもみ殻は米農家にとって困りごとの種であり、産業廃棄物の処理問題として社会課題にもなっています。
もちろん長年、もみ殻のリサイクル技術の研究が行われたり、様々な企業がもみ殻の有効活用に取り組んできました。しかし、米の製造工程と密接に関係しているため通年で安定的な供給量を確保するのが難しかったり、粉砕しようにも機械の刃がもみ殻の硬さに負けてしまったり、大量のシリカを含むため焼却炉内で塊(クリンカー)を形成して燃焼阻害を引き起こしたり、リサイクルするための製造コストが高くなったりするなど課題が多く、なかなか事業展開は進んできませんでした。
「グラインドミル」の登場で、もみ殻の活用に活路が開ける
難航していたもみ殻の活用方法ですが、2007年に契機が訪れました。造船の町・広島県尾道市にある株式会社トロムソが開発した「グラインドミル」という機械です。
地場産業である造船業の技術を生かし、もみ殻をすり潰す部品に船舶用エンジンにも使われるタングステンを吹き付けて機械の耐久性を強化。硬いもみ殻をすりつぶして高温で圧着させ、製造コストを大幅にカットして固形燃料にすることができます。(動画引用:株式会社トロムソ)
グラインドミルは海外にも輸出され、アフリカ、東南アジアなどの稲作が盛んな地域で使われています。しかしながら、モミガライトの認知度はまだ高いとは言えません。需要が増えなけければ生産も増えないため、「全国モミガライト普及協議会(株式会社トロムソが2015年に設立)」は地道な普及活動を続けています。その甲斐もあり、グラインドミルを導入したり、モミガライトを生成・販売する事業者や米農家は増えているようです。
2023年2月10日(金)には、株式会社穴太ホールディングス(本社:千葉県木更津市、代表取締役:戸波亮)が運営するThe北海道ファーム株式会社が、北海道産の米を使った「モミガライト Popke(ポプケ)」の販売を始めました。「Popke(ポプケ)」とはアイヌ語で“暖かい”という意味。自然と共に生き、自然を愛しながら暮らしてきたアイヌ文化に敬意を込めて名付けられています。
The北海道ファーム株式会社ではPopkeの他にも、米の生産者および商品開発者として、田んぼから出る廃棄物を削減するため「米ぬか」や「もみ殻」を積極的に商品化しています。製品は北海道・千葉県・神奈川県にある直営店とオンラインショップで製品を購入することができます。
まとめ
農家の産業廃棄物処理問題、化石燃料などの環境問題、エネルギー価格高騰問題など、現代における様々な問題に向きあうモミガライトはサスティナブルなエコ燃料といえるでしょう。災害備蓄燃料の導入や見直しを検討している方は、ぜひチェックしておきたいですね。
参考:https://tromso.co.jp/、https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000111326.html、https://momigalite.com/