災害時の生活に備えて、非常持出袋や防災リュック、食料や水などの防災備蓄品といった必要な物資を自宅にまとめている方は多いと思います。しかし、災害の状況によっては住み慣れた家で安全に避難生活を送れるとは限りません。地震や津波で建物が倒壊したり、集中豪雨による浸水や土砂災害など、家に留まることが危険で住み続けられないときは、手で持っていけるだけの物資と一緒に自治体が指定した「指定避難所」へ移動して生活することになります。
避難所での生活は数日程度に収まることが多いものの、大災害が起きると1週間〜数ヶ月など長期的な避難所生活を強いられることも。1週間以上の生活に備えて自宅で物資を確保していても、自宅外へ避難しなければならなくなったとき、必要なものをすべて持っていくのは難しく、取りに戻れるとも限りません。
避難所でも自治体等が用意した支援物資を受け取ることはできますが、必要最低限の量であり、個別のニーズに対し十分な配慮がなされていない場合があります。物資が足りない不便さに加え、普段の生活と大きく異なる環境では精神的に不安を感じやすくなり、避難所生活のストレスから体調を崩す人も少なくないのが現状です。
そこで今回は、万が一避難所生活が長期化しても、落ち着いて「いつもの生活」を送るために必要なもの・大事なものを手元に届けてもらえる便利なサービス、「防災ゆうストレージ」について紹介します。
避難先での不便や不安を軽くする「防災ゆうストレージ」
「防災ゆうストレージ」とは?
「防災ゆうストレージ」は、日本郵便株式会社(東京都千代田区 代表取締役社長:衣川和秀、以下「日本郵便」)と寺田倉庫株式会社(東京都品川区 代表取締役社長:寺田航平、以下「寺田倉庫」)が共同で企画した、防災に特化した宅配型の保管サービスです。
避難時の生活で必要な品物を詰めた専用ボックスを寺田倉庫へ預けておき、必要になったらインターネット上で取り出し手続きを行うと、日本郵便がボックスを避難所など希望の場所まで届けてくれます。
このサービスには
- 「じぶん用支援物資」
- 「大切なものエスケープ」
という2つの使い方があります。
「じぶん用支援物資」
「じぶん用支援物資」は、避難所での長期生活で必要となるであろう日用品等をあらかじめ倉庫に預けておき、必要な時に避難所などへ配送してもらう使い方です。
メリット
- 「避難する時に持ち運べるかどうか」で備える物の種類を考えなくても良くなる
- 使い慣れたものを避難所でも手元に確保できることで安心感が生まれる
- 預け先に取りにいくのではなく、身を寄せた避難先など場所を指定して受け取れる
- 最初の「サービス利用申込」から「荷物の受け取り」までインターネットで手続きが完結
- 防災備蓄のために使っていた家の収納スペースを節約できる
「大切なものエスケープ」
「大切なものエスケープ」は、思い出のアルバムや大切な手紙など、普段の生活には必要ないけれど災害時に失くしたくない大事な品物を安全な場所で預かってもらう使い方です。土地や建物が崩れたり、生活の景色が変わり果てた被災後に「思い出も何もかも失ってしまった」と悲しむ被災者の声が絶えないことから考案されました。
大きな災害が起きると日常が一変してしまいます。そんなとき、日常を思い出させてくれるアイテムは不安を和らげたり悲しみから立ち直らせてくれるなど、想像以上に心の拠り所として機能することがあります。
メリット
- 被災後の生活でも重要な「心の支え」が守られる
- 普段の家での収納スペースがすっきりする
何をどれだけ預けられる?
「じぶん用支援物資」も「大切なものエスケープ」も、下記に該当する物以外であれば預けることができます。
- 現金、有価証券、通帳、印紙、証書、重要書類、印鑑、クレジットカード、キャッシュカード類
- 貴金属、美術品、骨董品、宝石、毛皮等の高額品または貴重品
- 易損品(壊れやすいもの)
- 磁気を発し、その他の保管品に影響を与える物品
- 灯油、ガソリン、ガスボンベ、マッチ、ライター、塗料等の可燃物
- 農薬、劇薬、火薬、毒物、化学薬品、放射性物質等の危険物または劇物
- 動物、植物(種子、苗を含む)
- 飲食料品(ただし輸送および保管中に荷物に損害を及ぼす恐れのないものを除く)
- 異臭、悪臭を発するまたは発するおそれのある物品
- 廃棄物
- 法令により所持を禁止されている物品
- 公序良俗に反する物品
- 物品が危険品、変質または損傷しやすい物品、荷造りの不完全な物品、その他日本郵便株式会社が提供する通常のゆうパック(セキュリティサービスや保冷等の特別な取扱いの付加がないもの)において引き受けられない物品
預けられないものに注意しつつ、特設サイトで公開されている「保管品チェックリスト」を参考に準備するのがおすすめです。
このチェックリストは、災害に強いまちづくりを目指して活動する名古屋市の認定NPO法人「レスキューストックヤード」の代表理事 栗田 暢之さんが監修しています。
品数に制限はありませんが、保管できる荷物の重量(箱の重量を除く)は
- 専用ボックス「大」:20kgまで
- 専用ボックス「小」:13.5kgまで
となっています。
保管先の倉庫は安心安全な環境!
預けられたボックスは、利用者の居住地域と異なる都道府県の硬質地盤(※JISA1219に基づく標準貫入試験方法においてN値50)な土地にある、耐震基準を満たした寺田倉庫の専用トランクルームで保管されます。これにより、万が一防災ゆうストレージ利用者の居住地域が大きく被災しても、預けられた物品は無傷な状態で引き出すことができます。
トランクルーム内は温度・湿度が1日2回チェックされ、24時間365日、保管物にカビの発生しにくい環境が保たれています。さらに有人管理、機械警備、防犯設備監視カメラ、人感センサー、外周セキュリティ等、多重のシステムを組み合わせた管理が行われており、セキュリティ面も安心です。
利用費用は?
「防災ゆうストレージ」は有料サービスです。ボックスのサイズに応じて、必要な費用が異なります。
支払い方法はクレジットカードのみ。VISA、JCB、MasterCard、NICOS、AmericanExpress、Diners Club、AUSTRALIAN BANKCARDが使えます(※デビットカード及び海外発行のクレジットカードは利用不可)。
送料はかかる?
品物を入れるために専用ボックスを受け取る・倉庫へ預ける場合は送料が初期費用に含まれています。
倉庫から取り出して受け取ったり、一度受け取ったあとでまた保管してもらう際には、専用ボックス小=1,540円、大=2,200円の送料が別途かかります。届け先に応じた金額の変動はなく、全国一律です。
なお、このサービスは避難生活が長期化した際に活用してもらうことが目的です。災害の状況によっては配達ルートに影響が出て遅延や困難な場合もあるため、被災後すぐに届けてもらえるとは限りませんので注意してください。
「防災ゆうストレージ」のポイントは?
避難生活の質を向上させ、「いつもの暮らし」と「安心」を届けてくれる
災害時の避難行動で命を守れても、その後の避難所生活で被災者は物資の不足による不便さや、見慣れない環境での集団生活や食べ慣れない食事など、不安を感じながら暮らさざるを得ないという状況が長年問題視されています。特に持病や障害のある方や高齢者、小さな子どものいる家庭などでは、“特別に必要な日用品” があるものの、避難所での確保は難しい場合が多く、避難所生活が長期化した場合にストレスから体調を崩す「二次災害」のリスクが高まります。
こうしたリスクを下げるには、避難先でもできるだけ日常生活に近い環境が整えられるよう、それぞれが自身にとって大切なものを持ち運ぶのが最善策ですが、荷物の量が多くなると迅速な避難はできません。「家のどこかに置いておき後から取りに戻る」という方法もありますが、東日本大震災の際には「自宅へ必要なものを取りに帰ったときに被災して命を落とす」という悲しい出来事が起こりました。震災であれば余震や津波、大雨であれば氾濫や土石流など、災害時はいつ何が起きてもわからない状態が続くため、被災現場に近づいたり戻るのは大変危険です。
「防災ゆうストレージ」は市販の防災グッズなどパッケージ化されている製品とは違い、例えば度数のあった眼鏡やコンタクトレンズ、自分サイズの下着やあるとホッとするものなど、それぞれが普段通りの生活をするうえで必要なものをカスタマイズし、持ち運べるかどうかを気にせず備えておけます。
日本郵便の配送網が活用されているため、わざわざ自宅へ戻らなくても避難先を指定して受け取れるのも便利です。
「専用ボックス」にもこだわりが
荷物の入れ物といえば段ボールが一般的ですが、「防災ゆうストレージ」では繰り返し使えて資源の無駄にならない観点から、耐久性と密閉性に優れたポリプロピレン製の専用ボックスを使用しています。
避難先で机や椅子がわりに使うことができ、保管するだけでなく使い勝手も良いのが特徴です。
サービスが生まれた背景
全国およそ2万4000の郵便局ネットワークを持ち、約40万人の従業員がいる日本郵便では、郵便局が、郵便・物流、貯金、保険から公的窓口サービスやショッピングなど、日頃からたくさんの業務を通じて地域の人々と交流している存在だからこそ、災害時にはインフラとして社会を支えることが重要な役割だとして、これまで防災に関するさまざまな取り組みを行ってきました。
例えば、地域の減災と防災力向上のための活動を担う「防災士」。2021年時点、全国の防災士資格を持つ人は226,120人で、そのうちのおよそ5%を郵便局長さんが占めており、自治体と協力して地域の防災活動に日々尽力しています(参考:全国郵便局長会、認定特定非営利活動法人日本防災士機構)。
災害時の例では、2011年の東日本大震災において、災害発生後、1週間も経たずに郵便物の配達や窓口業務を再開。被害が大きい地域の避難所へは車両型郵便局を臨時で派遣し、郵便サービス以外にも、今後の生活や健康への不安を抱える街の人々の話を聞くなど、地域の人に寄り添い続けました。
今回の「防災ゆうストレージ」は、日本郵便が持つ全国の配送網を活かした新しいサービスを検討中、『どなたかの大切な何かを預かり、必要なときにお届けする一連の流れを提供したい』という社員のアイデアから、従来の倉庫業の概念をさらに深化させ、「モノだけではなく、価値をお預かりする」という理念に基づき活動する寺田倉庫と協業を決定。
その後、倉庫業における宅配型トランクルームサービスが住宅スペースの限られている都市部では認知や利用が進んでいるものの、地方ではスペースに不満を持つ機会が少ないせいかあまり馴染みがないという現状をもとに、自然災害が多発している今の国内では「防災・災害」にかかわるものであれば需要がありそうだと判断して生まれたそうです。
サービスは日本の防災学の第一人者である 片田 敏孝氏(東京大学大学院 情報学環 特任教授)が監修を担当しており、信頼性は保証済み(特設サイトでは片田さんからのサービスに関するコメントが読めます)。
全国に配送網を持ち、各地に根差した防災意識の高い郵便職員がいる郵便局だからこそ、サービスに興味を持った人々へ親身になって相談に乗ることもできるという郵便局ならではの特性も大きく活かされています。
まとめ
防災に特化した宅配型保管サービス「防災ゆうストレージ」は、避難所生活が長引いても利用者が「いつもの暮らし」に近い環境を整えられる画期的なサービスです。
2022年2月から利用申し込み受付が始まっており、日本郵便の特設サイトのほか、各郵便局の窓口でも案内があります。興味のある方はぜひお近くの郵便局を訪れた際に確認してみてくださいね。
参考:https://www.jpcast.japanpost.jp/2022/02/222.html、http://www.postmasters.jp/action/bosaishi.html、https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000291.000014158.html