高性能なツールがあっても使いこなすことが難しいと宝の持ち腐れになる。今回の開発は、その問題を解決してくれるものである。

国立研究開発法人土木研究所(以下、土木研究所)の開発した、洪水をシミュレーションする優秀なシステムはあるのだが、そのシステムを使うために必要なパラメーターの選択には熟練の技術と河川工学・水文学の専門知識が必要になる。しかも作業量は膨大で、その難しさが壁となって活用しきれていなかった。

しかし今回富士通研究所と土木研究所が共同開発した、洪水予測シミュレーターのパラメーター値を自動的に決定する技術により、今まで以上にシミュレーターが活用され、洪水被害の減少に繋がると予想する。

高度な技術と知識が必要な膨大な作業を最適化アルゴリズムで自動化

画像:FUJITSUプレスリリースより引用

災害の対策には、「いつ、どこで、どのようなことが起こるか」を予測することが重要で、水害対策の場合は河川の流量がそれを測る指標となる。

土木研究所の開発した洪水予測シミュレーターでは、河川付近の地形や土地利用の分布をモデル化した分布型流出モデルを用いることにより、詳細な河川シミュレーションが可能である。

しかしそのモデルを決定するためのパラメーターの適切な調整が難しく、高度な技術と膨大な作業量が必要であった。今回開発した技術により、その課題を数量最適化によって自動選定することで解決した。

特徴は以下のとおりである。

①分布型流出モデルに適した最適化アルゴリズムの選定と、過去の洪水における検証

数量最適化と呼ばれる計算技術(工場の生産計画や輸送の経路計画などにも利用される)により、可能な限り良い解を少ない試行回数で求め、自動的に調整する。国内のある河川で発生した15種類の洪水について、河川の流量測定値と洪水予測シミュレーター計算値を検証したところ、一定以上の再現性を確認した。

②洪水の特徴とパラメーターの関連性の分析

洪水を特徴づける各種の統計量と、洪水ごとに再現性の良いパラメーターを分析することにより、流出率(雨量と河川の流量の比)とパラメーターに関連があることを明らかにした。

この知見は新たな洪水に対してのパラメーター調整をする際に有効な情報である。

個人の技量によらない安定した予測と防災、減災

自動調整されたパラメーターのもとで洪水予測シミュレーターを運用することが可能となり、河川管理者個人の熟練度によらない予測が可能となった。それにより、いつでも最適な条件下で、防災、減災のための対策を適切に判断できるようになった。

今後はより精度を上げ、シミュレーションと観測データを融合するデータ同化によるリアルタイム洪水予測に取り組む。

地震や土砂崩れなどさまざまな災害がある中で、洪水は普段から警戒しにくい部類に入る。大きな河川付近は警戒するが、いざ洪水が起こると、まさかここまで、というエリアまで水が及ぶことがある。

一刻も早いリアルタイム洪水予測技術の開発と、具体的な運用方法、行政による適切な伝達方法の決定を願う。その技術は日本国内だけでなく、同じように洪水問題を抱えている世界各国にも応用できるため、現地での災害対策、インフラ整備、雇用創出に貢献できるだろう。