災害時において発生から72時間以内の救援活動が何よりも重要だというのは周知の事実である。しかし地震や津波、火災によって機能が低下した陸上の交通網の中で行われる救援活動には限界があるだろう。そこで活躍するのが災害救援航空機だが、そのシステムをより最適化しようというJAXAの技術を紹介したい。
災害対応航空技術「D-NET2」って一体なに?
災害によって陸上の交通がマヒした際に、ヘリコプターなどの災害救援航空機を最適な形で運用するために重要なことは、航空~宇宙機器の有効活用だ。
「災害救援航空機統合運用システム (D-NET2)」とは、航空機、無人航空機、人工衛星の統合的な運用によって災害情報の収集・共有、また災害救援航空機による安全で効率的な救援活動を支援する技術であり、JAXA(宇宙航空研究開発機構)は「D-NET2」の実現に必要な技術を開発することで、いつか必ず起こるであろう大規模災害への対応能力強化に貢献している。
災害時の迅速な対応のために。「D-NET2」の目標とは
JAXAは「QOL (Quality of Life)」を用いて地域ごとの救援活動の進捗を数値で可視化することを検討しており、これにより「D-NET2」の評価を定量的に行うことが可能になる。また、航空宇宙機器や他の情報源から入手した災害や救援活動に関する情報を統合・整理することで、救援活動に地域格差が出ることを防ぐことになるとのことである。
さらにJAXAは、内閣府が中心として行っている大規模広域災害の被害想定・対策の見直しを踏まえ、D-NET2の性能目標を「発災後72時間以内において、現状の手法・システムではQOL=3(生命の維持)に必要な救援機会の提供が不可能な事案を、航空宇宙機器によって提供可能な事案に対して2/3減少すること」と定義した。
DREAMSプロジェクトの一環で研究開発している「災害救援航空機情報共有ネットワーク (D-NET)」というものがある。それによってドクターヘリ、災害対策本部、また他の災害上システム等と情報の共有化を図ることが可能になり、さらに地球観測衛星や無人航空機が観測した災害情報データを共有化することでより迅速な救援活動が可能になるということだ。またこのシステムで災害情報、飛行可能距離、気象条件などに基づき各航空機に仕事を割り振ることで、任務の最適化と待ち時間の短縮につながるということだ。
「D-NET2」を支えるサブシステム
「D-NET2」の仕事をさらに最適化し、効率を上げる任務支援サブシステムの例を2つ紹介したい。
まずはヘルメットマウンテッドディスプレイ(HMD)等による視界情報支援だ。ヘリコプターによる捜索活動には、夜間や天候不良時に飛行できないといった制限があった。しかしJAXAが行ってきた、HMDに赤外線カメラの映像や地図データを表示することでより安全性を高める研究に更に改良を重ね、要救助者情報などを表示することでパイロットの負担軽減や、捜索・救助時間の短縮を目指す。
またサイレントタイムという、航空機の騒音が地上における生存者の捜索活動の妨げにならないように周辺地域を飛行禁止にする措置が取られることがあるが、情報共有技術と低騒音運航技術によって飛行禁止空域を最小限かつ動的に設定することが可能になるということだ。
この他に航空機の衝突防止技術など、D-NET2を支えるサブシステム・技術が多数存在する。これらが実際に運用されるようになれば、より救助活動・情報収集能力の質が向上するだろう。
災害発生時に何よりも求められることは、より迅速に被害状況を把握すること、生存者を発見・救助することだ。ヘリコプターなどの航空機器や、人工衛星などの宇宙機器を活用して収集したデータが共有されることで活動がさらに迅速になり、より多くの命が救われることになるだろう。JAXAによる「災害救援航空機統合運用システム (D-NET2)」の研究・開発がさらに進み、大規模災害が発生した際に十分役立てられることを期待したい。