犬には、人間より優れた聴覚や嗅覚が備わっている。その能力を活かして活躍するのが、盲導犬、警察犬、介助犬、災害救助犬だ。多くの場面で、人間をサポートしてきた。
しかし、犬も人間と同じ動物である。長時間活動すると集中力が低下して、判断力も鈍ってしまう。言葉で意思を表現できない、犬の気持ちが分かったら、より犬と人間は、協力して活動ができるのではないだろうか。
今回は、災害救助の現場で活躍する、救助犬の“気持ち”を知るサイバースーツについて紹介する。
災害救助犬の聴覚・嗅覚を活かした人命救助
サイバー救助犬TadoLab東北大学田所研究室公式HPより引用
災害救助犬とは、地震や土砂崩れ、山の遭難事故などが発生した際、人命救助の現場で活躍する犬だ。人間よりはるかに優れた嗅覚・聴覚を活かして、がれきに埋もれた被災者の位置を教えてくれる。
しかし、そこには生き物ならではの課題がある。救助犬は、疲労が溜まると集中力が低下し、捜索能力が一気に落ちるのだ。東日本大震災の現場では、無理をさせたために、優れた嗅覚を失ってしまった救助犬もいるという。
また、救助犬は感知した異変を、人間に吠えて知らせることはできるが、「何を見つけたか」はすぐに分からない。発見場所が遠いときには、正確な地点がすぐに分からないことが課題となっていた。
そこで、2017年11月、東北大学と麻布大学などの研究チームによって、災害救助犬の「やる気」が把握できる「サイバースーツ」が開発された。このサイバースーツを装着させることで、救助犬の“やる気”が、誰から見ても分かるようになる。これにより、救助犬を、効果的に活躍させることが可能になった。
AIを活用して救助犬の感情を推測
サイバー救助犬TadoLab東北大学田所研究室公式HPより引用
このサイバースーツには、心電計測用の電極が3つある。この電極は救助犬の身体に、常に密着するよう配置されている。そして、救助犬の体の動きや心拍数などの、データを計測する。計測されたデータは、インターネット経由でクラウドサーバーに送られ、人工知能(AI)が分析をしてくれる。
これにより、専門的な知識がなくても、救助犬が「ポジティブ」な状態かどうか、感情や「やる気」を知れるようになったのだ。
またサイバースーツには、小型カメラ、マイク、GPS装置も組み込まれている。そのため、救助犬の行動をリアルタイムで、人間と共有することが可能となった。
将来、犬の気持ちが分かるかも
今まで分からなかった“犬の気持ち”が最新技術を使って、見える形になって分かってきた。しゃべることはできない、犬と人間の関係だが、こうした技術を使うことで、お互いに信頼関係を高めることが可能になりつつある。救助犬が疲れたときには、すぐに休ませ、効率の良い救助活動もできるようになる。
長年開発されてきたサイバースーツは、来年から、救助犬に向けて実際に提供される予定だ。犬の感情が分かる機能も、2年後の搭載をめどに研究が進められている。また、開発チームは、一般のペット犬の気持ちが知りたいという、飼い主のニーズにも応えられるようにしていきたいとしている。家庭の犬の気持ちが分かる日も、そう遠い未来ではないのかもしれない。