自然災害が世界中で猛威を振るっている。日本では13都県に特別警報が発令された台風19号や、九州地方での大雨などが記憶に新しい。人の力では制御できない台風や地震を、私たちはどう対策すべきか――。SAPジャパン(以下、SAP)は2019年12月24日、都内のイベントスペース「TECH PLAY SHIBUYA」で開かれたイベントで、災害対策の現状と課題、そして同社が開発を進めている防災・減災プラットフォーム「EDISON」が実現している内容と今後の展望について語った。
「EDISON」を手掛ける3つの理由
EDISONは、SAPが大分大学・大分のザイナス社と共同で研究・開発を進める、“災害対策の高度化”を目指すプラットフォームだ。
SAPがEDISONを手掛けるのには3つの理由がある。SAPのデジタルエコシステム統括本部ビジネスイノベーション推進部イノベーション・スペシャリストである吉田彰氏はこう説明する。
(1)自然環境の変化により災害多発時代に突入している為、災害対策の高度化が急務であること。
(2)デジタル技術の発展により、過去発生した災害データを蓄積するだけでなく「活用」できるようになったこと。
(3)SAPが提供する、大量のデータを高速処理できるデータベース「SAP HANA®︎」や機械学習が、収集したデータをもとに学習・予測することに長けており、災害地の情報を迅速に集めたり、地理情報システム(GIS)*1を活用することに適していること。
*1 地理的位置を手がかりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術。(国土地理院HP https://www.gsi.go.jp/GIS/whatisgis.html)
データ活用で実現した「災害対策の高度化」
様々なデータをEDISONに統合することで、「災害リスク評価」「初動対応の迅速化」が可能になる。
「災害リスク評価」では、国土の基礎情報や刻々と変化する雨量などのデータ、過去1300年の災害史などのデータを組み合わせることで、地域や状況に合わせたリスクを評価することができる。
また「初動対応の迅速化」では、災害発生時に衛星で取得したデータから土砂崩れや洪水が起きている箇所を概ね特定し、そこにドローンを飛ばすことで道が通れるか否かなどの具体的な被害状況を迅速に確認し支援機関に情報を共有することができる。
高度な災害対策のための現在の課題
防災対策にデータ活用は有効だが、扱うデータを「正しく統合すること」「量を増やすこと」に課題があると吉田氏は続ける。
例えば、日本の河川は等級により管理管轄が異なり*2、各管理主体ごとに異なる名称やIDが割り振られている。それを分析するためにはデータを同じ形式で正しく統合する必要があるという。
また、吉田氏は公共機関である政府や地方自治体などが保有するデータだけでなく、民間企業が保有するデータをより多く組み合わせることで、災害発生地点をもとに「電線が切れる・停電になる可能性がある場所」などの具体的な被害評価が可能になると話す。
*2 一級河川は国土交通省、二級河川は都道府県、三級河川は市町村が管理しており、補修・災害履歴は各地方自治体が管理している。
「住民の意識を変えること」も重要
吉田氏はイベントのなかで数度、ドイツの哲学者ニーチェの「過去が現在に影響を与えるように未来も現在に影響を与える」という言葉を引用し、思い描く未来を実現する(アウトプットを変える)ためには、人間もデータと同様に「インプットを変えなければならない」と指摘。
実際に3社は、自宅のある地域で「過去にどんな災害が起きたのか」「未来に起きる可能性があるのか」を理解し、発災時の適切な行動を促すために、レゴブロックなどを使った水門作りなどの防災教育も行っているという。
「データ活用の基盤を整えることと住民の防災意識を変えることを両輪で進めていくことで災害対策はより高度なものになる」(吉田氏)
※この記事は、TECH PLAYによる寄稿でお送りしました。